花火の向こうに見えたもの

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福岡で一緒に暮らした、くにちゃん。
たった2年の暮らしだったけれど、彼の事を少し書き綴っておこう。

くにちゃんとは、わたしが福岡へ押しかけるような格好で一緒に暮らし始めた。
彼は多趣味で、登山、キャンプ、ポタリング、釣り、とにかく好奇心旺盛で興味を持った事には手を出しとことん楽しむ。そんな性分だった。

手先が器用で、なんでも作りだすことが大好きだった。
自営で技工士をしていたが天職だと自分でも言っていた。
スマホのマグネット式充電を、世界で初めて開発したのは彼なんじゃないかとわたしは勝手に思っている。
お互いに時を共有し楽しむことが出来る、相性が良い関係と思っていた。

少し困ったことに、彼は、興味の対象がコロコロ変わる。
頭の回転が良いを通り越して、ADHDを疑わせるような行動が目立っていた。だんだんわたしは振り回されるようになっていく。
診断されていたわけではないので、確かなことは言えないが、多動であったり、興奮した時の吃音であったり、成育歴を辿るとそう思わざるを得なかった。
幼少期にもっと正しい支援が得られていれば、療育を受けていられれば。
なんてもうどうしようもない事を思ったりもした。

とにもかくにも、彼との暮らしは、楽しさの中に、恐怖がいつも隣り合わせだった。それがわたしにとっての、「ふつう」の生活になっていった。

ご機嫌な彼は、わたしを優しく褒めてくれる。
愉快でハッピーな視点の持ち主だった。どれだけ一緒に笑っただろう。
いまでも思い出すのは、しょうもない事をふたりで大笑いしている光景だ。



ところが、何か気にそぐわないことが起きると一変。
大声で罵倒してきたり、激昂して金銭を要求してきたり、カメラを取り付け行動を監視したり。働きたいと言ったわたしに、殴りかかってきたこともあった。

これをDVと言っていいのかどうかわからないが、DVループに迷い込んでしまった。

当時のTwitterアカウントは無くなってしまったが、逐一、彼の言動をつぶやいていた。
自分の気持ちを落ち着かせ、冷静を保つためと、正気ではいられなかった時間を振り返るための記録用だった。

逃げたいのに逃げられない。

そんな気持ちを抱えながらの暮らしなんて続くわけもなく、引っ越す前夜に、別れを告げた。

彼が望む「ふつう」の生活がどんなものだったのか。
わからないまま時は過ぎている。

彼は、すこしの生きづらさを抱えていた。
幼少期の辛かった出来事を語り泣いていた夜があった。
自分ではどうすることもできない衝動や行動。育ちの環境。
生きづらさは、いくつかの要因がひっからまっていることが多い。

彼を責めるつもりは到底無い。
彼の「ふつう」をわたしには受け入れる事が出来なかったと言うだけの話だ。
もしも、彼をまるごと受け入れ包んであげる事が出来たのならば、敵対することも疑うこともなく、無駄に消耗することもなかったのではなかろうか。
誰でもいい。彼のそばにパートナーがいてくれることを願ってしまう。
もう既にいるのかもしれないが。

彼とベランダから見た花火は頭上で破裂し、火の粉がすぐそこまで降ってきた。
怖がるわたしをなだめる彼の横顔は、凛々しさと頼りなさを併せ持っていた。

彼がいま、ひとりで泣いてなければいいなと想いを寄せる今宵。 

もうすぐ、あの時の花火大会だ。                fin

                    *すべてフィクションです。 

↓くにちゃんは、いつも楽天でお買い物してたっけな。

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